2月19日区長により提案された「生活安全条例」案は区民環境委員会の審議の結果、日本共産党以外の賛成多数で可決され、本会議で決定される予定です。
この条例は、「地域における犯罪等を未然に防止するため、区、関係機関、関係団体、事業者及び区民が、相互に連携した活動を行なうことにより、地域社会における生活安全を推進する」ことを目的としています。(第1条) 「関係機関」とは警察署、消防署その他のことです。「関係団体」とは、「生活安全に関する活動を行なう団体」と定義されています。(第2条) 「区の責務」は、生活安全に関する「意識啓発」「活動の支援」「環境整備」を実施する。(第3条) 「関係団体」(事実上、区内にあるすべての団体とする解釈が可能)は、これらの区の施策および「関係機関」(警察署などのこと)が実施する生活安全に関する施策に「協力するよう努めるものとする」(第5条第2項)となっており、事業者にも準用されます。防犯に関する業務を地方自治体の業務として位置付けようというものです。


窃盗犯罪など、最近の刑法犯罪の増加と検挙率の低下は区民の不安を増大させています。このような事態を招いた原因は、犯罪白書平成13年度版によると、少年犯罪の増加、ピッキングなどプロの窃盗団の激増に加え、ストーカー防止法、児童虐待防止法等の新設、DV法など警察段階で「事件」として扱われる件数が増え、仕事量が増加する一方で警察官の増員が行なわれていないことにあるようです。これらが検挙率の低下をうみだし、平成13年1月から4月までの数値では、強盗の検挙率は49.8%で2件に一件はつかまらないということになっています。刑法犯全体の検挙率は18.3%に過ぎません。警察庁が軽微な犯罪より重大な犯罪に多くの人員とエネルギーをさくようになった結果、市民生活における窃盗犯罪にまで手が回らなくなってきたのではないでしょうか。
このような背景のもと、警察官の増員などで区民生活を守ることを求めるのではなく、法律によって区民に事実上、警察への協力義務を課し、犯罪の防止を図るというのであれば、本末転倒ではないかという声も当然生まれます。区民のみなさんが求めているのは、防犯の「意識啓発」を求められることではなく、犯罪そのものを防止する警察の体制強化にあるのではないでしょうか。
区の条例は、「協力義務」を課すことによって、あたかも刑法犯罪への不安は区民の防犯意識の形成で少しでも抑止できるかのような幻想を区民に与えかねません。


板橋区には、板橋防犯協会、志村防犯協会、高島平防犯協会の三つの防犯協会があって、それぞれ区からの100万円の補助金を加えて、約500万円から600万円ぐらいの年間予算で活動しています。平成12年度の事業報告によると、防犯啓発、空き巣など進入窃盗の防止活動、ひったくり等の窃盗防止活動、こどもを事故や犯罪から守る活動、覚せい剤等の薬物乱用防止活動、子どもを取り巻く有害環境の浄化活動、拳銃使用犯罪・覚せい剤事犯等の防止活動、金融機関・コンビニ等を対象とする強盗事件の防止活動、悪質商法被害等高齢者の保護活動、防犯パトロール、防犯功労者の表彰、ピッキング対策など多岐に渡っていると報告されています。
「生活安全条例」が「目的」とする「地域社会の生活安全を推進する」活動を精力的に行なっているといえるでしょう。「条例」では、第7条において区民の安全に関する事項を協議するため「生活安全協議会」をおく、としました。区は、条例案の説明で協議会ではピッキング対策、悪質商法などへの対策を話し合ってもらうと述べています。協議会では「関係機関」として警察等が加わります。条例を新設する意味はここにあるといえるのではないでしょうか。


警察と市民の人権について多くを発言してきた自由法曹団は、警察情報の非公開性の改善を求めています。自由法曹団によれば、「行政警察や一般的な犯罪予防は市民に広く情報を公開し、市民の協力のもとに実現されるべきものであり、秘密にすべき領域はほとんど存在しない。」それにもかかわらず、「こうした市民生活と密着した活動分野においても情報の公開はほとんど行なわれず、警察活動が市民から見えないものになっているのが実態である」と述べています。警察が刑法犯罪の増加に見合った警察官の増加を行ない、毅然と取り締まりの体制をとり、それを区民が認識をして協力するから犯罪を防げるのであり、情報の公開は不透明、区民にのみ情報を求めるのでは、結局、警察だけが知っているということになりかねません。

長野士郎「逐条解説地方自治」によれば、条例の制定にあたっての留意点として、「必要の理由を明確に把握すること。特に地方公共団体の行政として独特の意義を有するかどうかは十分検討されるべきである。」「目的実現の方法として条例制定以外に方法がないか否かを慎重に検討すること」と述べています。区民の刑法犯罪への不安が大きいからこそ、条例制定先にありきではなく、これまでの活動の総点検と条例制定への必然性を区民が納得できるような具体的説明責任が問われたのではないでしょうか。区議会もまた、短い審議でよしとするのではなく、慎重な検討こそ必要ではなかったでしょうか。